2023/9/10
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限定承認とは?メリットやデメリット、手続の流れについて |
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相続が開始した場合,相続人は次の3つのうちのいずれかを選択できます。 ①相続人が被相続人の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ「単純承認」 ②相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない「相続放棄」 ③相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ「限定承認」 限定承認は、一切を引き継ぐ「単純承認」と一切を引き継がない「相続放棄」の中間的な位置づけとなっており、一見すると非常にメリットがありそうにも思えますが、その手続はかなり複雑です。 今回はその「限定承認」について解説します。 限定承認とは?メリットやデメリット、手続の流れについて
1.限定承認とは 限定承認については、民法922条に「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」と定められています。 つまり、預貯金や不動産などプラスの財産(積極財産)と、相続債務などマイナスの財産(消極財産)のすべてを承継するものの、消極財産については、承継した積極財産の限度内でしか責任を負わないという相続の方法です。 限定承認以外の相続方法としては、単純承認や相続放棄があります。単純承認は被相続人の権利や義務を全面的に承継する制度、相続放棄は被相続人の権利や義務を一切承継しない制度であるのに対し、限定承認は積極の相続財産から弁済可能な限度で消極財産を承継する制度ですので、両者の中間的な方法ということができます。 2.限定承認の方式 限定承認は、相続人が自己のために相続があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述して行わなければなりません。この際、相続人が複数いる場合には、原則として相続人全員で申述をする必要があります。これは、相続人の中で、限定承認と単純承認をする人がいると、手続が複雑になってしまうためです。なお、相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、それ以外の相続人全員で限定承認の申述をすればよいことになります。 3.限定承認のメリットとデメリット (1)限定承認のメリット ① 消極財産に対する責任が限定される 限定承認をすれば、相続人は、借金などの消極財産が積極財産を上回る場合であっても、あくまで積極財産の範囲内でしか責任を負いませんので、相続人固有の財産にまで責任が及ぶことはありません。反対に、積極財産が消極財産を上回った場合には、積極財産から消極財産を差し引いた部分について相続することができます。 ② 特定の財産を手元に残すことができる 限定承認では、積極財産の範囲内で被相続人の債務を弁済することなりますが、そのために必要があれば、相続財産を売却してその資金を用意することになります。この場合の売却方法は、原則として競売によらなければならないと定められていますが、限定承認をした相続人であれば、例外的に相続財産を競売で処分せずに、相続人が買い受けることで手元に残すための手続が用意されております。 (2)限定承認のデメリット 限定承認の手続は、ほかの相続方法と違って、非常に複雑な手続を経る必要がありますので、その負担は大きくなります。 また、限定承認をすると、税務上の取扱いとして、被相続人が相続開始の時点ですべての財産を時価で売却したものとみなされ(みなし譲渡)、その結果によっては譲渡所得税が課税される場合があります。 4.限定承認の手続の流れ 限定承認の手続の流れは、おおむね以下のとおりです。 (1)限定承認の申述 相続人が、相続開始があったことを知った日から3か月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述します。 上述のとおり、限定承認の申述は、相続放棄をした者を除いた相続人全員で行う必要があります。もし相続人の中の1人でも単純承認をした場合には、限定承認をすることはできません。 家庭裁判所が、限定承認の申述を受理すると、相続人が1人の場合はその人が、相続人が複数である場合には、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、それぞれ相続財産の管理や債務の弁済などの清算手続を行うことになります。 (2)相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告 限定承認をした人は、限定承認の申述が受理された日から5日以内(相続財産管理人の場合は、その選任があった日から10日以内)にすべての相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内(最低2か月以上)に請求の申し出をすべき旨を、官報で公告します。 なお、現実的には、上記の期間内に公告を掲載することは不可能であるため、公告掲載の手続をとればよいとされています。 また、限定承認をした人や相続財産管理人は、把握している相続債権者及び受遺者に対して、個別に請求の申し出をするよう催告をしなければなりません。 (3)換価 ① 弁済のための相続財産の換価 相続債権者及び受遺者に対する弁済をするために必要がある場合には、相続財産を換価します。この場合は、不当な額で相続財産が売却されることを防ぐために、原則として競売によって行われます。 ② 鑑定人による評価と先買権 限定承認をした人が手放したくない相続財産がある場合には、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を支払って、相続人がこれを優先的に買い受けることもできます(先買権)。 (4)弁済 ① 相続債権者に対する弁済 (2)の公告期間の満了後、相続財産の中から、公告期間内に請求の申し出をした相続債権者や把握している相続債権者に対し、各債権者の債権額の割合に応じて弁済を行います。 ② 受遺者に対する弁済 相続債権者に対する弁済が行われた後、なお相続財産に余剰がある場合には、請求の申し出をした受遺者や把握している受遺者に対して弁済を行います。 ③ 請求の申出をしなかった相続債権者及び受遺者に対する弁済 公告期間内に請求の申出をせず、かつ、限定承認をした人や相続財産管理人に把握されなかった相続債権者及び受遺者についても、上記の弁済が行われた後に残余財産がある場合には、これらの相続債権者及び受遺者に対して弁済を行うことができます。 (5)残余財産がある場合 相続債権者や受遺者への弁済がすべて完了してもなお残余財産がある場合には、限定承認をした人が取得することになります。相続人が複数いる場合には、相続人全員で遺産分割を行い各人が取得する財産を決めることになります。 5.まとめ 限定承認は、受け継ぐ債務に対する責任の範囲を限定したり、特定の財産を残せる場合があることなどから、相続人の置かれた状況によっては非常に有用なものとなり得る相続方法です。 ただ、そうはいっても、手続の煩雑さや税務上の注意点などから、単純承認や相続放棄と比べてあまり利用がされていないというのが現状です。 もし、どの相続方法をとるべきか迷っている場合や、現実に限定承認の手続を検討しているする場合には、専門家に相談したり、アドバイスを受けてみることをお勧めします。 森山司法書士事務所では、限定承認に関するご相談・ご依頼を承っております。 どうぞお気軽にお問い合わせください。 |
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