2023/9/20

どう変わる?嫡出推定制度

 令和4年12月、民法が改正され、無戸籍者が生じる原因の1つと考えられている「嫡出推定制度」や「嫡出否認制度」の見直しや「女性の再婚禁止期間」が廃止されることになりました。この改正は、令和6年4月1日から施行されますが、今回の記事では、改正の内容とその背景について解説します。
 
 
 
どう変わる?嫡出推定制度
 
 
 
目次
1.嫡出推定制度の見直し
2.嫡出推定規定の見直しの背景~無戸籍者の問題~
3.女性の再婚禁止期間の廃止
4.嫡出否認制度の見直し
 
 
 
1.嫡出推定制度の見直し
 
 
嫡出子とは、「婚姻中の夫婦の間に生まれた子」のことですが、従来、民法では「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と定められており、さらに「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」ことが定められていました。
 

これが、改正により、離婚等の日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母が再婚をしたときは、再婚後の夫の子と推定することとされました。
 
 
2.嫡出推定規定の見直しの背景~無戸籍者の問題~
 
 
通常、戸籍は子が生まれて一定の期間内に自治体に出生届を提出することで作られます。ところが、何らかの事情でこの出生届が提出されず、戸籍を持たないまま生きている人たちがおり、このような戸籍を持たない人のことをいわゆる「無戸籍者」といい、教育や医療その他の生活面で様々な問題や困難に直面することがあります。
 
こういった無戸籍者が生じる原因の1つとして、民法の「嫡出推定規定」の存在が指摘されていました。つまり、離婚した後300日以内に夫以外の者との間に子を産んだ場合でも、この嫡出推定規定があるために、その子は前の夫の子として扱われることになってしまいます。そこで、夫以外の者との間で子を産んだ母親が、この嫡出推定規定により前の夫の子として扱われることを避けるために出生の届出をしないケースがあり、これが「無戸籍者」の問題を生じさせる原因であるとの指摘があったわけです。
 
令和6年4月1日以降、民法の改正により見直された嫡出推定規定が施行されることで、このような無戸籍者の問題の解消へ一定の効果が期待されます。
 
 

3.女性の再婚禁止期間の廃止
 
 
民法改正により嫡出推定規定が見直されたことで、女性の再婚禁止期間についても廃止されることになりました。
 
従来の規定では、女性は離婚後100日間は再婚することができないと定められていましたが、これは、離婚後300日以内に生まれた子が元夫の子と推定されることと、婚姻後200日を経過した後に生まれた子は再婚後の夫の子と推定されるという従来の嫡出推定規定と関連して定められたものです。
 
これだけだと少し分かりにくいのですが、例えば、Aと離婚した妻が、その60日後にBと再婚し、その200日後に子Cが生まれたとします。
 
この場合、子CはAとの離婚後300日以内(60日+200日=260日)に生まれた子ですので、Aの子とであると推定される一方で、Bとの婚姻後200日を経過した後に生まれた子ですので、Bの子であるとも推定されます。このような父性の推定が重複することを避けるために、女性の再婚禁止期間として100日間を置かなければならないとされていたわけです。
 
しかし、嫡出推定規定の見直しにより、このような父性の推定が重複することがなくなることになりますので、女性の再婚禁止期間についての規定が廃止されることになりました。
 
 
 
4.嫡出否認制度の見直し
 
 
嫡出否認とは、嫡出子であると推定された子について、その嫡出性を否定する行為で、例えば、妻の不貞により生まれた子や、離婚後に別の男性との間に生まれた子を自分の子ではないと否定できる制度です。
 
従来は、夫の子と推定された子について、「夫は、子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えを提起することにより、推定を否認することができる。」とされていました。つまり、子や母には嫡出推定を否認することができず、これも無戸籍者の問題を生む一因となっており、また「1年以内」という期間では訴えを提起するための期間としては不十分であるという指摘がされていました。
 
そこで、令和4年の改正により、夫に加えて、子又は母は、嫡出否認の訴えを提起することができることとされ、さらに、再婚後の夫の子と推定される子に関し、前夫は嫡出否認の訴えを提起することができることとされました。
 
また、嫡出否認の訴えをできる期間についても、原則として3年間とし、子については一定の要件を満たす場合には、例外的に21歳に達するまで嫡出否認の訴えを提起できることとされました。