2023/9/23

会社の印鑑登録が義務ではなくなりました

令和3年2月15日、商業登記法規則第20条の「印鑑の提出」に関する規定が削除されました。これにより、従来、会社などの法人設立に伴い義務とされていた法人の代表者印(実印)となる印鑑の提出(登録)が任意となりました。なお、当然ですが、印鑑を提出しなかった場合には印鑑証明書も発行されないということになります。
 
 
 
 
会社の印鑑登録が義務ではなくなりました
 
 
 
目次
1.会社の印鑑登録は義務ではない
2.現実的には印鑑登録は必須
3.印鑑登録が任意になった意味はある?
4.おわりに
 
 
 
1.会社の印鑑登録は義務ではない
 
 
従来、会社等の法人については、商業登記法20条1項本文において「登記の申請書に押印すべき者は、あらかじめ、その印鑑を登記所に提出しなければならない」とされていました。
 
例えば、株式会社の設立登記を申請する場合、会社設立時の代表取締役は、その株式会社の設立登記の申請と同時に印鑑届出書を法務局に提出し、会社の印鑑を登録してもらう必要がありました。
 
しかし、令和3年2月15日の商業登記規則改正によって、オンラインで登記を申請した場合には、印鑑の登録が任意になり、印鑑届書を提出しなくても会社を設立することができるようになりました。ただし、これはあくまでもオンラインで登記を申請した場合であり、書面申請(QRコード付き書面申請を含む。)の場合や司法書士等の代理人に登記申請を委任し、その委任状を書面で提出する場合は、従来どおり印鑑の登録が必要です。
 
 

2.現実的には印鑑登録は必須
 
 
印鑑の登録が任意になったとはいえ、金融機関で融資を受ける際や行政へ許認可の申請する際、取引先との契約を結ぶ際などに、実印で押印を求められることがまだまだ多く、現実的には印鑑登録は必須といえるでしょう。
 
なお、今回の改正により、それまで印鑑登録は書面を提出して行う必要があったところ、オンラインで登記の申請と同時に行う場合に限り、印鑑の登録もオンラインで行うことができるようになりました。ただし、書面申請(QRコード付き書面申請を含む。)の場合や司法書士等の代理人に登記申請を委任し、その委任状を書面で提出する場合は、従来どおり書面による印鑑の提出が必要です。
 
 

3.印鑑登録が任意になった意味はある?
 
 
今回の改正の趣旨は、近年のデジタル化、書類への押印廃止に向けた取り組みを登記手続にも反映させようというものです。
 
しかし、印鑑の登録をしない会社が、その後に会社の登記を申請しようとするときは、申請書や登記委任状などの書類に押印する印鑑がないため、書面申請を行うことはできません。
 
この場合、会社の登記手続はオンラインで申請を行わなければならず、その際には議事録や登記委任状はPDFなどで作成したうえで電子証明書による電子署名をすることになります。
 
つまり、商業登記の申請手続をオンラインで完結することができる場合には、印鑑の登録を任意にしたことにも意味があると言えます。
 
なお、この電子証明書に関して、以前は法人の代表者印が必要になる場面で電子署名する場合、法務局が発行する法人の電子証明書による電子署名が必要でしたが、今回の改正により、代表者個人のマイナンバーカードに格納された電子証明書なども商業登記で使用できるようになりました。
 
これらのことから考えると、例えば、代表者印を用意する時間すら惜しいほど、会社の設立を急いでいるときに、マイナンバーカード等に格納されている電子証明書を利用して取り急ぎ会社を設立するような場合には、印鑑登録を任意としたことに実益があるかもしれません(ただ、ネット通販には最短で即日出荷も可能なところもありますし、設立時にはとりあえず代表者個人名の印鑑で登録しておいて、あとで改印届を出すという方法もありますので、あまり現実的ではないかもしれません)。
 
 
 
 
 
4.おわりに
 
 
書類への押印廃止の流れは、今後さらに進んでいくものと思われますが、まだ現在の日本社会においては押印を求められる場面が数多く存在しているため、会社等の法人が法務局に印鑑を提出することは避けられない状況にあるでしょう。もし、電子証明書を使用できる環境が整っていたとしても、当面は法務局への届出印も用意しておき、場面に応じて使い分けるのが無難だと思います。
 
ただ、登記申請の場面に限れば、今後は完全オンライン申請の需要が高まることは十分に予想されることですので、私たち司法書士もそのようなニーズに応えられるよう、より一層の研鑽に努めなければならないと思います。