2023/9/29

契約だけで成立する「諾成的消費貸借契約」ってどういうこと?

合意だけで成立する消費貸借契約が令和2年4月1日から施行されています。
 
合意があれば契約が成立するのは当たり前だと思うかもしれませんが、従来、消費貸借について、条文上は、合意だけでは契約は成立せず、金銭その他の目的物の交付があった時に契約が成立するとされていました。
 
今回は、改正により新たに定められた契約類型の一つである諾成的消費貸借契約について解説します。
 
 
 
契約だけで成立する「諾成的消費貸借契約」ってどういうこと?
 
 
目次
1.通常の消費貸借契約と諾成的消費貸借契約の違い
2.従来の実務では諾成的な消費貸借契約が行われていた
3.諾成的消費貸借契約とは
4.おわりに
 
 
 
1.通常の消費貸借契約と諾成的消費貸借契約の違い
 
 
消費貸借契約(民法第587条)は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる契約です。
 
典型的な例として、金銭や米、味噌等の調味料の貸し借りがあります。借りたお金や調味料は、通常、そのまま置いておくわけではなく使ってしまうことになるため、借りた物そのものは無くなってしまいます。そこで、同じようなものを返すことを約束して金銭や調味料を受け取るというのが消費貸借契約です。なお、金銭を対象とする場合を、特に金銭消費貸借契約と呼びます。
 
このように消費貸借契約とは、金銭その他の物を「受け取ることによって」効力が生じるとされています。つまり、効力が生じるためには貸し借りの目的となっている物の受け渡しが必要とされており、このような契約を要物契約といいます。
 
これに対して、目的となっている物の受け渡しを必要とせず、当事者の合意だけで成立する契約を諾成契約といいます。
 
(消費貸借)
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
 
 
 
2.従来の実務では諾成的な消費貸借契約が行われていた
 
 
ところで、改正される前の実務においては、目的となっている物の受け渡しをする前に、消費貸借契約の成立を認める、いわゆる諾成的な消費貸借契約が行われており、判例も諾成的消費貸借契約の有効性を認めていました。
 
もっとも、諾成的消費貸借が実務では利用されているとはいえ、その成立を安易に認めると、口約束であっても貸主に「貸す義務」、借主に「借りる義務」という制約を課すことになり、妥当でない場合が生じる可能性があるほか、当事者間で消費貸借契約をした場合に、それが、目的となっている物の受け渡しによって契約の効力が生じるという要物性を前提としているのか、それとも目的となっている物の受け渡しがなくても成立する諾成的消費貸借としての合意なのかを判別することが困難であるという問題が生じます。
 
そこで、587条において、従来の要物契約としての消費貸借契約は維持しつつ、587条の2において、書面でする消費貸借契約については、合意のみで成立する「諾成的消費貸借契約」を新たに定めることとしました。
 
 
 
3.諾成的消費貸借契約とは
 
 
(1)諾成的消費貸借契約の成立
 
改正された民法では、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質、数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる(民法587条の2第1項)と定め、目的となっている物の受け渡しがなくても効力が生じる諾成的消費貸借契約を定めています。

(書面でする消費貸借等)
第五百八十七条の二 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。

4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
諾成的消費貸借契約は、通常の消費貸借契約と違って口頭ですることはできず、書面で行わなければなりません。もっとも、消費貸借の詳細な内容まで書面に記載されている必要はなく、金銭その他の物を貸す旨の貸主の意思とそれを借りる旨の借主の意思の両方が表れていれば足りるとされています。
また、これについては電磁的記録によって行うことも可能(同条第4項)ですので、例えばメールでのやり取りで行うことが可能です。
ただし、書面に比べてメールは簡便なやりとりであることから、合意するつもりがなかったのに、あるいは本来意図していた内容と異なる内容で契約をしてしまったということにならないように注意が必要です。
なお、書面でする消費貸借契約であっても、目的となっている物の受け渡しにより契約の効力が生じるとすることは可能ですが、原則として、書面でする消費貸借契約は諾成契約となるため、目的となっている物の受け渡しを契約の効力発生の要件とする特約を契約書に明記する必要があります。
 
 
(2)諾成的消費貸借契約の解除について
 
諾成的消費貸借契約では、借主は、貸主から目的物を受け取るまでの間は、契約の解除をすることができます(同条第2項)。例えば、目的となっている物を受け取る前に、借主にそれを借りる理由がなくなった場合などです。
 
ただし、この場合、貸主は借主の解除によって受けた損害の賠償を借主に対して請求できることとなっています(同項但書)ので、借主としてはその点に注意しなければならないでしょう。
 
 
(3)目的となっている物の受け渡し前に当事者の一方が破産した場合
 
諾成的消費貸借契約においては、契約から目的となっている物の受け渡しまでの間、貸主には「貸す義務」が、借主には「借りる権利」が発生しますが、そうなると、受け渡しが行われるまでの間に、貸主または借主が破産してしまうという事態も起こりえます。
 
例えば、金銭の貸し借りについての合意が成立した後に、貸主が破産した場合には、そもそも貸付けるだけの金銭が無いか、あったとしてもその金銭を含めて貸主の財産は破産管財人の管理のもとで債権者のための配当原資になりますし、また、借主が破産した場合には、返済能力がない借主に対して、貸主に金銭を貸す義務を負わせることになるのは不合理です。
 
そこで、借主が貸主から目的となっている物を受け取る前に、当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う(同条第3項)ものとされました。
 
なお、破産以外でも、民事再生(個人再生)や会社更生など、借主の経済状況に不安が生じる場合はありますが、このような信用不安については、貸主の貸す義務は消滅しないことになります。そこで、貸主としては、破産以外の信用不安についても、諾成的消費貸借契約の効力を失わせたり、解除することができる旨の定めを契約書に記載しておくという対策を講じておく必要があるでしょう。
 
 
 
4.おわりに
 
 
諾成的消費貸借契約は、通常の消費貸借契約よりも契約がしやすい面もありますが、その一方で様々な問題が発生するリスクもあります。
 
したがって、そのリスクを回避し、あるいは予防するために、契約書にどのような記載をするべきか等を慎重に検討することが必要です。
 
契約後に思わぬトラブルに巻き込まれないよう、専門家に相談して法的に問題がないか確認してもらうこともお勧めです。