2023/10/3

未成年者がいるときの遺産分割協議

令和4年4月に民法が改正され、成年年齢が20歳から18歳へ引き下げられました。これによって、男女を問わず18歳以上であれば、成人として法定代理人の同意を得ずに契約締結をはじめとした法律行為を行えるようになりました。遺産分割協議もこの法律行為にあたりますので、18歳以上であれば単独で行うことができますが、反対に18歳未満の未成年者は、単独では有効な遺産分割協議を行うことはできません。
 
今回は、相続人の中に未成年者がいる場合の遺産分割協議について解説します。
 
 
 
相続人の中に未成年者がいる場合の遺産分割協議
 
 
目次
1.未成年者は単独では有効な遺産分割協議を行うことができない
2.未成年者の法定代理人
3.親権者の同意や代理によって遺産分割協議を行うことができないケース
4.親権者が未成年者の法定代理人として遺産分割協議に参加することができるケース
5.特別代理人を選任せずに行った遺産分割協議は無効
6.おわりに
 
 
 
1.未成年者は単独では有効な遺産分割協議を行うことができない
 
 
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければなりません。(民法5条1項本文)。これは、未成年者は判断能力が十分ではなく、単独で有効な法律行為を行うことはできないと考えられているためです。
 
そして、遺産分割協議は法律行為にあたるため、未成年者が遺産分割協議を行うには、法定代理人の同意を得て行うか、法定代理人が未成年者に代わって行う必要があります。
 
 
 
2.未成年者の法定代理人
 
 
法定代理人とは、法律の定めに基づいて代理権が与えられた代理人のことをいい、未成年者の場合、法定代理人は、原則として親権を有する父母(親権者)です(民法824条)。そのため、未成年者が相続人となって遺産分割協議を行う場合には、未成年者が親権者の同意を得て行うか、親権者が子の代理人として、遺産分割協議を行う必要があります。
 
しかし、相続の態様によっては、親権者の同意や代理によって遺産分割協議を行うことができない場合もあるため注意が必要です。
 
 
3.親権者の同意や代理によって遺産分割協議を行うことができないケース
 
 
(1)未成年者とともに親権者も相続人となる場合
 
例えば、父親が死亡して、母親とその未成年の子が相続人となるような場合では、子の取得分を増やせば母親の取得分が減り、子の取得分を減らせば母親の取得分を増えることになります。このような状態を「利益相反」といいますが、ここで単独親権者となった母親が未成年の子を代理すると、子の利益が十分に保護できないおそれがあります。
 
この場合、母親は家庭裁判所に対し、未成年の子のために特別代理人を選任することを申し立て、選任された特別代理人との間で遺産分割協議を行うことになります。
 
また、死亡した人に未成年の子が複数いる場合には、その1人1人に対して、個別に特別代理人が必要となります。それぞれの子と親の利害が対立することになるからです。
 
 
(2)法定代理人は相続人とはならないものの、未成年者の相続人が複数いる場合
 
例えば、被相続人の子が被相続人よりも前に死亡しており、子の子(被相続人の孫)である未成年者が代襲相続人となる場合、代襲相続人の親権者は相続人とはなりませんので、親権者は代襲相続人の法定代理人として遺産分割協議を行うことができます。
 
しかし、ここで被相続人の孫の中に未成年者が複数いる場合には注意が必要です。この場合において、親権者が複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議を行うと、未成年者同士の利益が相反することになります。そのため、このケースでは未成年者1名以外の未成年者について、特別代理人の選任が必要となります。
 
 
 
4.親権者が未成年者の法定代理人として遺産分割協議に参加することができるケース
 
 
(1)法定代理人である親が相続放棄を行う場合
 
未成年者と親権者がともに相続人となる場合であっても、親権者が家庭裁判所で相続放棄をしたときは、親権者ははじめから相続人ではなかったものとみなされるため、利益相反とはならず、親権者が未成年者の法定代理人として遺産分割協議に参加することができます。
 
例えば、父親が死亡して、母親と成年の子1名、未成年の子1名が相続人となるような場合において、母親が自分の相続分について相続放棄をすれば、未成年の子の法定代理人として遺産分割協議に参加することができます。
 
 
 
5.特別代理人を選任せずに行った遺産分割協議は無効
 
 
もし、親と未成年の子の利益相反があるにもかかわらず、特別代理人を選任しないで遺産分割協議を行っても、そのような遺産分割協議は無効であり、親権者が未成年の子の代理人として遺産分割協議書に署名押印をしても、相続手続を進めることはできません。だからといって、未成年の子自身が署名押印をしたとしても、通常、相続手続においては遺産分割協議書のほかに印鑑証明書の提出を求められ、印鑑証明書にはその人の生年月日が記載されていますので、未成年者であることを隠すことはできないでしょう。もちろん、未成年の子を外して遺産分割協議をすることはできず、そのように行った遺産分割協議は無効です。
 
 
 
6.おわりに
 
 
相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者が単独で遺産分割協議を行うことができないだけでなく、法定代理人である親権者でも未成年者を代理することができない場合があります。
 
未成年者が成年に達するまで遺産分割協議を待つという方法も考えられますが、その場合、相続財産は被相続人の名義のままとなり、活用することが難しくなります。また、相続税が発生する場合には相続税申告の際に配偶者控除や小規模宅地の特例といった減税制度の適用を受けられなくなってしまうおそれもあります。
 
あと数ヶ月で未成年者が成年に達するなど、よほどの事情がなければ、特別代理人を選任して遺産分割協議を行うことが望ましいでしょう。