2023/10/16

登記識別情報(登記済証)を提供できない場合の方法~事前通知~

不動産の売買や贈与などによる名義変更(所有権移転)や不動産に対する抵当権の設定などの登記においては、原則として、登記権利者及び登記義務者が共同して登記を申請し、その際には登記義務者の登記識別情報または登記済証(いわゆる権利証)を提供しなければならないとされています。
 
では、もし紛失や失念などの理由で登記識別情報や登記済証を提供できない場合、登記はできないということになるのでしょうか。
 
今回は登記識別情報(登記済証)を提供できない場合の手続のうち、「事前通知」という方法について解説します。 
 
 
 
登記識別情報(登記済証)を提供できない場合~事前通知とは~
 
 
目次
1.登記識別情報と登記済証とは
2.事前通知とは
3.事前通知の方法
4.事前通知に対する回答(申出)
5.事前通知の再発送の可否
6.おわりに
 
 
 
1.登記識別情報と登記済証とは
 
 
一般的に、不動産を購入したり、贈与や相続などによって取得すると、法務局から不動産の取得者に対して「登記識別情報」という12桁の英数字で構成されるパスワードが発行される取り扱いになっております(多くの場合は、印字した登記識別情報に目隠しをした状態の「登記識別情報通知」という書面が交付されます)。
 
なお、平成17年の不動産登記法改正以前は、登記済という赤いハンコと、申請した登記の受付日や受付番号が記載されたものが不動産の取得者に返却されており、これは登記済証と呼ばれています。
 
これらの登記識別情報や登記済証は、その不動産の所有者であることを証明するものとして、その後、不動産を売却したり、抵当権を設定したりする際の登記の申請において提供しなければならないとされています。
 
しかし、中には登記識別情報または登記済証を忘れてしまったり、紛失するなどして、その後の登記申請の際に提供できないということもあるでしょう。そのような場合に利用する方法のひとつが「事前通知」という方法です。
 
 
 
2.事前通知とは
 
 
登記識別情報または登記済証を提供・提出すべきとされている登記の申請において、その登記識別情報(登記済証)を提供することができない正当な理由があるときは、法務局から登記義務者に対し、「申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると考えるときは、法務省令で定める一定期間(原則として2週間)内にその旨の申し出をすべき旨」を通知することとされています。これを「事前通知」といい、もし登記義務者より事前通知に対する申出が期間内にされないときは、申請が却下されることとなります。
 
ちなみに、ここでいう「登記義務者」とは、申請する登記により権利を失ってしまうことになるといった「登記記録上不利益を受ける者」のことをいいます。
 
 
 
3.通知の方法
 
 
不動産登記は書面で申請やオンラインで申請する方法がありますが、いずれの方法で登記を申請した場合でも、事前通知は「事前通知書」という書面で行われます。
 
 
(1)登記義務者が個人の場合
 
登記義務者が個人である場合の事前通知は本人限定受取郵便等で送付されることになります。
 
 
(2)登記義務者が法人の場合
 
登記義務者が法人の場合には、法人の主たる事務所にあてて書留郵便等で送付されることになりますが、申出により法人の代表者の住所にあてて送付することも可能であり、この場合には、本人限定受取郵便等で送付されることになります。
 
 
(3)登記義務者が日本国外に住所がある場合
 
登記義務者が日本国外に住所がある場合は、書留郵便等で送付されます。
 
なお、権限を有する官公署の作成に係る証書により、登記申請に関する不動産の管理・処分の一切の権限を与えられたことを証明した代理人を事前通知の送付先とすることも可能です。
 
 
 
4.事前通知に対する回答(申出)
 
 
事前通知があった場合、登記義務者が申出期間内に法務局に対して回答(申出)をしたときは、登記官は、その登記をすることができ、この申出がされるまでは、登記をすることができません。
 
 
(1)申出期間
 
この申出は、原則として2週間以内に事前通知書の返送によって行いますが、2週間という期間の起算日は登記義務者が受領した日ではなく、通知を発送した日からとなることに注意が必要です。
 
なお、登記義務者が日本国外に住所がある場合は、通知を発送した日から4週間以内となります。
 
 
(2)申出方法
 
事前通知書が届いたら、回答欄に登記名義人が署名し、申請書または委任状に押した印鑑と同じ印鑑(実印)で捺印をします。署名と捺印をしたら、登記を申請した法務局へ持参または郵送する方法で申出を行いますが、前述のとおり、申出には期間が決められていますので、郵送する場合には申出期間内に法務局に届くようにしなければなりません。
 
なお、事前通知は常に書面で行われますが、それに対する申出については、もともとの登記申請がオンラインで申請されていた場合には、オンラインで申出を行うことも認められています。
 
 
 
5.事前通知の再発送の可否
 
 
事前通知書が受取人不明を理由に、法務局へ返送された場合において、申出期間が満了する前に申請人から事前通知書の再発送の申し出をすれば、再発送してもらうことができます。ただし、その場合でも申出期間は「最初に事前通知書を発送した日」から起算することになるため注意が必要です。
 
なお、事前通知書を紛失したり、火災または盗難等に遭ってしまった場合の再発送の要望に対して、法務局は応じることはできません。この場合、申出ができなくなるため、いったん申請を取り下げ、再度、登記申請をし直す必要があります。
 
ただし、郵便盗難事故により登記義務者に配達される前に亡失した場合、亡失証明書の提出があれば再発送してもらうことができます。しかし、この場合でも、申出期間は最初の通知の発送日から起算されることには注意が必要です。
 
 
 
6.おわりに
 
 
登記識別情報や登記済証がない場合でも登記を申請することは可能ですが、事前通知を利用するときには、登記義務者の協力が不可欠であり、場合によっては登記申請が却下されてしまうおそれもあります。
 
このような理由から、事前通知は一般的な不動産の売買や金融機関の融資がある場合はほとんど利用されず、例えば、親族間の贈与など、登記の受付や完了を急がないときに利用されることが多い方法です。