2023/10/31

未成年者がいる場合に相続放棄をする場合の注意点

被相続人が死亡した際に、不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、ローンや借金とったマイナスの財産も相続の対象となります。もし、プラスの財産に比べてマイナスの財産のほうが多ければ、相続放棄を検討することもあるでしょう。
 
ただ、その場合に相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者は単独で相続放棄をすることができないため注意が必要です。
 
今回は、相続放棄をする場合に未成年者がいる場合の注意点を解説します。
 
 
 
未成年者がいる場合の相続放棄について
 
 
 
目次
1.相続放棄とは
2.未成年者の相続放棄
3.未成年者が相続放棄をするときの熟慮期間の起算点
4.未成年の子のみが相続放棄をする場合には特別代理人の選任が必要
5.特別代理人の選任が不要な場合
6.おわりに
 
 
 
1.相続放棄とは
 
 
相続放棄とは、相続発生後に相続の対象となる資産や負債といった権利や義務を一切引き継がないで放棄することです。相続放棄をする典型的なケースとしては、プラスの財産よりもマイナスの財産が多いような場合です。このような場合に相続放棄をすれば、死亡した人の財産を引き継ぐことはできませんが、借金などの負債を返済する義務も引き継がずに済みます。
 
ただし、相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に対してその旨の申述をしなければならないと定められています。
 
 
 
2.未成年者の相続放棄
 
 
民法では、未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないと定められています(民法5条1項本文)。そして、相続放棄も法律行為であるため、未成年者が相続放棄をする場合、原則として、法定代理人の同意を得ることが必要となります。
 
一般的に、相続人の中に未成年者がいる場合に相続放棄をするときは、法定代理人である親権者が代理することになります。
 
なお、親権者である両親がすでに死亡している場合のように、未成年者に法定代理人が存在しないといったケースもありますが、そのような場合には、未成年後見人の選任を裁判所に申し立て、その選任後に未成年後見人が未成年者を代理して相続放棄をします。
 
 
 
3.未成年者が相続放棄をするときの熟慮期間の起算点
 
 
相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内という期間制限があり、この期間のことを熟慮期間といいます。未成年者が相続人となった場合、原則としてその親権者が法定代理人となりますが、この熟慮期間の起算点は、親権者が未成年者のために相続の開始があったことを知ったときとなります。
 
つまり、未成年者は自ら相続放棄の手続をとることはできないため、熟慮期間については、未成年者本人ではなく親権者を基準に判断されるということです。
 
 
 
4.未成年の子のみが相続放棄をする場合には特別代理人の選任が必要
 
 
前述のとおり、法定代理人である親権者と未成年の子が相続人となるような場合に、未成年の子が相続放棄をするときは、親権者が代理することになります。しかし、ここで親権者が相続を単純承認し、未成年の子だけが相続放棄をする場合、親権者が代理することはできません。
 
その理由は、未成年の子が相続放棄をすることによって親権者の相続分が増加するという関係にあることから、親権者が相続放棄の手続を代理するに場面においては、利益が相反する立場にあるからです。
 
この場合、未成年の子の利益を守るため、親権者に代わって未成年の子のために代理行為を行う特別代理人を家庭裁判所に選任してもらわなければなりません。
 
なお、親権者と未成年の子との間で利益相反しているかどうかの判断は、当該行為の外形のみで判断し、当事者の考えや動機などが影響することはありません。したがって、未成年の子に借金を相続させたくないという思いから、親権者が未成年の子のために相続放棄をするような場合でも、外形的には、未成年者の相続放棄によって、親権者の相続分が増加するという利益相反関係にあれば、特別代理人の選任が必要になります。
 
 
 
5.特別代理人の選任が不要な場合
 
 
特別代理人の選任が必要な理由は、未成年の子と親権者が利益相反の関係にあるからです。そうであれば、両者が利益相反の関係でなければ特別代理人の選任は必要ありません。
 
例えば、親権者と未成年の子が、ともに相続放棄をする場合には両者の利益が相反しないため、親権者が未成年の子の法定代理人として、相続放棄を行うことができます。
 
なお、その場合の相続放棄の順番としては、先に親権者が相続放棄を行ってから未成年の子の相続放棄を行うか、親権者と未成年の子全員が同時に相続放棄をすることになります。
 
 
 
6.おわりに
 
 
未成年者には、単独で有効な法律行為をする能力が認められていないことから、相続放棄をする場合においては、特に注意が必要です。成年者が相続人となる場合に比べてしなければならない手続が増えることもあるため、不安のある方は専門家へ相談してみることをお勧めします。