2023/12/19

戸籍謄本等を取得する手間が軽減できる?~戸籍謄本等の広域交付制度~

相続手続においては、多くの場合、被相続人(死亡した人)の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍のほか、相続人の戸籍謄本等を取得することになりますが、現在、戸籍謄本等は本籍地のある市区町村の役所でしか取得することができません。
 
被相続人や相続人の本籍地が必ずしも住所と同じ市区町村内にあるとは限らないため、遠方の役所に請求する必要があるかもしれませんし、また、被相続人が本籍地を転々としていたりすると、この戸籍を取得するだけでも相当な手間がかかります。
 
令和6年3月1日から、戸籍法の一部を改正する法律が施行され、本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍謄本等を請求できるようになります。これを戸籍謄本等の「広域交付」といい、この制度が始まることで戸籍謄本等を取得する手間が軽減されることが期待できます。
 
 
 
戸籍謄本等を取得する手間が軽減できる?~戸籍謄本等の広域交付制度~
 
 
 
目次
1.戸籍謄本等の取得には手間がかかる
2.戸籍謄本等の広域交付制度
3.広域交付制度の注意点
4.おわりに
 
 
 
1.戸籍謄本等の取得には手間がかかる
 
 
相続が発生すると、法務局での不動産の名義変更(相続登記)や税務署での相続税申告、金融機関での預貯金の払戻手続などいろいろな場面で戸籍謄本等が必要となります。
 
戸籍謄本等は、「筆頭者(戸籍の最初に記載されている人)」の本籍地の市区町村の役所に請求しなければならず、現在の時点では、本籍地以外の役所で取得することはできません。
 
また、戸籍は、本人の転籍や婚姻、離婚、コンピュータ化に伴う書式の変更など、様々な原因で新たに作成され、一つの戸籍には、原則として、作成された日から消除されるまでの期間の情報しか記載されません。
したがって、過去に出生、離婚、養子縁組したなどの情報はその当時の戸籍を確認しなければわからないため、死亡時の戸籍から遡りながら、全ての役所から取り寄せるという手間と負担が発生します。
 
 
 
2.戸籍謄本等の広域交付制度
 
 
戸籍法の改正によって、令和6年3月1日から戸籍謄本等の広域交付制度が始まり、どの役所でも取得できるようになります。
 
これによって、本籍地が遠くにある方でも、住まいや勤務先などの最寄りの市区町村の役所で請求できるようになり、さらに、取得したい戸籍の本籍地が全国各地にあっても、1か所の市区町村の役所でまとめて請求できるようになります。
 
したがって、これまでの方法では戸籍謄本等の取得に時間と手間がかかっていたようなケースで、かなり負担が軽減できることが期待できます。
 
ただし、戸籍、除籍の一部のみを証明した戸籍抄本・除籍抄本(一部事項証明書、個人事項証明書)は広域交付制度で請求することはできず、従前どおり本籍地の市区町村の役所で取得する必要があります。また、コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍も広域交付制度の対象外です。ただ、スキャンして画像データとなっている手書きの戸籍や改製原戸籍については広域交付で取得することは可能とされています。

なお、広域交付で戸籍謄本等を請求できるのは、本人からみて下記の範囲とされています。
 
① 本人
 
② 配偶者
 
③ 父母、祖父母などの直系尊属
 
④ 子、孫などの直系卑属
 
子がいない方の相続では、兄弟姉妹、おじ、おば等が相続人となることがありますが、兄弟姉妹やおじ、おばの戸籍謄本等は広域交付制度で請求することはできず、従来どおり、本籍地の市区町村役場で取得する必要があります。
 
 
 
3.広域交付制度の注意点
 
 
従来に比べれば非常に有用な広域交付制度ですが、利用するにあたっては注意点もあります。
 
① 戸籍謄本の広域交付制度を利用するには、請求できる方本人が市区町村の役所の窓口に行く必要があります。なお、窓口では本人確認のため「運転免許証」や「マイナンバーカード」など顔写真付きの本人確認資料が必要です。
 
② 郵送や代理人(専門家の職務上請求も含む)による取得はできません。司法書士などの専門家には職権で戸籍謄本等を請求することが認められていますが、広域交付制度では、この職権による請求(職務上請求)が認められていません。
 
③ 本人の兄弟姉妹やおじ・おばの戸籍謄本等については、広域交付制度は利用できません。
 
 
 
 
4.おわりに
 
 
広域交付制度が始まることで、戸籍取得にかかる利便性は上がりますが、まだこの制度を利用して戸籍謄本等を請求できる場面は限定的なものであるため、どのような場合においても戸籍取得の手間が軽減できるというわけではありません。また、戸籍を取得することはできても、そこに記載されている内容を読み取るには専門家に依頼しなければ難しいこともあるかもしれません。そのような場合は遠慮なく相談するようにしましょう。