2024/1/23

異なる順位の相続人が全員相続放棄をする場合の注意点

Q.数十年前も前に子どもを置いて行方が分からなくなっていた弟が、つい最近亡くなったと警察から連絡がありました。生前にどのような生活を送っていたかは分かりませんが、弟が住んでいたアパートを見に行ったところ、とても質素な生活をしていたようです。弟名義の銀行口座には20万円くらいの残高がありましたが、昔から弟には借金をする癖があったため、ひょっとしたら多額の借金がある可能性もあり、また、長年疎遠だったことからも相続には関わりたくないと思い、相続放棄をすることを考えています。
 
亡くなった当時、弟は独身でしたが、2人の子がいます。また、両親は今も健在で、兄の私以外にもう一人姉がおり、全員が相続放棄をしたいと考えていますが、全員がまとめて相続放棄をすることは可能でしょうか?
 
A.異なる順位の相続人がいる場合、全員が「同時に」相続放棄の申述をすることはできません。
 
 
 
 
異なる順位の相続人が全員相続放棄をする場合の注意点
 
 
目次
1.相続の順位
2.相続放棄の申述人
3.異なる順位の相続人は同時に相続放棄ができない
4.まとめ
 
 
 
1.相続の順位
 
 
被相続人が亡くなると相続が開始しますが、法律では相続する順番が決められています。
 
一般に、被相続人の子(子が既に亡くなっている場合には孫など)を「第1順位の相続人」、被相続人の父母や祖父母などの直系尊属を「第2順位の相続人」、被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合には、その子)を「第3順位の相続人」といいます。
 
つまり、第1順位の相続人が1人でもいれば、第2順位、第3順位の相続人には、相続する権利は発生せず、第1順位の相続人が誰もいない場合に、はじめて第2順位の相続人に相続する権利が発生します。同様に、第1順位と第2順位の相続人がいない場合に、第3順位の相続人に相続する権利が発生することになります。
 
なお、配偶者(被相続人の妻または夫)は、第1順位から第3順位の相続人がいるかいないかに関係なく、常に相続人になります。
 
 
 
2.相続放棄の申述人
 
 
相続放棄をすることができるのは、原則として相続人です(相続人が未成年者または成年被後見人である場合には,その法定代理人が代理して申述します)。
 
つまり、第1順位の相続人がいれば、その時点では第2順位、第3順位の相続人はまだ相続人ではなく、第1順位の相続人が全員相続放棄をすることで、第2順位の相続人(第2順位の相続人がいなければ、第3順位の相続人)が相続人になり、第2順位の相続人が全員相続放棄をすることで、第3順位の相続人が相続人になります。
 
 
 
3.異なる順位の相続人は同時に相続放棄ができない
 
 
相続放棄をすることができるのが相続人である以上、第1順位の相続人が相続放棄をしなければ(あるいは、第1順位の相続人がいない場合でなければ)、第2順位の相続人が相続放棄をすることはできず、同様に第3順位の相続人が相続放棄をするには、第2順位の相続人が相続放棄をする(あるいは、第2順位の相続人がいない)必要があります。
 
したがって、冒頭の質問のように、第1順位から第3順位までの相続人がいる場合に、その全員が相続放棄をしたいと思っていても、手続的には第1順位の相続人が全員相続放棄をした後でなければ第2順位の相続人は相続放棄ができず、また第2順位の相続人が全員相続放棄をした後でなければ、第3順位の相続人が相続放棄をすることができないということです。
 
なお、相続放棄には3か月の期間制限(熟慮期間)がありますが、これは、自分が相続人となったことを知った日から起算しますので、例えば、第1順位の相続人全員が相続放棄をした後に、第2順位の相続人全員が相続放棄をする場合であれば、第1順位の相続人が全員相続放棄をしたことによって、第2順位の相続人が相続人となったことを知った日から起算することになります。
 
なお、このときに配偶者が相続放棄をしたかどうかは関係ありません。
 
 
 
4.まとめ
 
 
異なる順位の相続人がいる場合、その全員が同時に相続放棄の申述をすることはできません。先順位の相続人がいる場合には、先順位の相続人全員の相続放棄が受理されてから、次順位の相続人が相続放棄の申述をすることになります。
 
もし、第1順位から第3順位の相続人の全員が相続放棄をするのであれば、その順番や熟慮期間の考え方に注意する必要がありますので、専門家の助言やサポートを依頼するのもよいでしょう。