2024/2/12

所在等不明共有者の持分の取得の制度について

共有となっている不動産がある場合に、その共有者の一部の氏名や名称が不特定であったり、あるいはその所在が分からなかったりすると、その不動産の円滑な利用や管理が妨げられてしまうことがあります。
 
従来、共有者の一部が所在不明である場合には、裁判による共有物分割によって共有関係を解消することが考えられていましたが、その場合、所在不明の共有者だけでなくすべての共有者を相手に裁判を起こさなければならないなど、負担が重く、また、共有者の一部が特定できない場合はそもそも裁判を起こすことができませんでした。
 
そこで、民法が改正され、所在等が不明な共有者の不動産の持分について、裁判所の関与のもとで、共有者全員を当事者とすることなく、他の共有者が相当額の金銭を供託して取得できる制度が設けられ、令和5年4月1日から施行されています。
 
 
 
所在等不明共有者の持分の取得~所在等が不明な共有者の同意がなくても、その持分を取得できる制度~
 
 
 
目次
1.1.所在等不明共有者の不動産の持分の取得
2.2.要件
3.3.供託とその金額の決定方法
4.4.手続の流れ
 
 
 
1.所在等不明共有者の不動産の持分の取得
 
 
改正民法では、裁判所の関与の下、共有者全員を当事者とすることなく、所在等が不明な共有者の不動産の持分につき、他の共有者が相当額の金銭を供託して取得する制度が創設されました。この裁判を起こすことができるのは、対象となる共有不動産について持分を有している共有者です。
 
 
 
2.要件
 
(1)共有者の不特定・所在不明
 
所在等が不明な共有者の不動産の持分を取得する裁判をするためには、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないことが必要です。
 
①共有者が他の共有者を知ることができないとき

共有者が他の共有者を知ることができないとき、とは、共有者において、他の共有者の氏名・名称などが不明であり、特定することができないことを意味します。
 
②共有者が他の共有者の所在を知ることができないとき

共有者が他の共有者の所在を知ることができないとき、の意味については、他の共有者が個人か法人によって分けられます。
 
ア 個人である場合
他の共有者が個人である場合は、共有者において、他の共有者の住所等を知ることができないときを意味します。
 
イ 法人である場合
他の共有者が法人である場合は、共有者において、他の共有者の事務所の所在地をすることができず、かつ、他の共有者の代表者の氏名等をすることができないとき又はその代表者の所在を知ることができないときを意味します。
 
共有者が死亡している場合は?

他の共有者が死亡しているもののその相続人がいるかどうかが不明な場合、相続財産管理人等がいなければ「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」に該当すると考えられています。
 
 
(2)所在等が不明な共有者以外の共有者からの異議がないこと
 
所在等が不明な共有者の持分に係る不動産について、裁判による共有物分割の請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等が不明な共有者の持分を取得するための裁判の請求を受けて裁判所が一定の期間を定めて公告をしたその期間内に、所在等が不明な共有者以外の共有者から異議の届出があると、裁判所は裁判をすることができないとされています。
 
 
(3)遺産共有持分が裁判の対象である場合の特則
 
裁判の対象である所在等が不明な共有者の不動産の持分が相続財産であり、相続人全員で遺産分割をすべき場合には、相続開始の時から10年を経過していない限り、所在等が不明な共有者の不動産の持分を取得するための裁判をすることができないとされています。
 
 
(4)対象となる共有持分
 
所在等が不明な共有者の不動産の持分を取得するための裁判は、不動産の共有持分のほか、不動産の使用又は収益をする権利の共有持分についてもすることができます。したがって、借地権などが共有状態にある場合も対象とすることができます。
 
 

3.供託とその金額の決定方法
 
 
裁判所は、所在等が不明な共有者の不動産の持分を取得するための裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならず、申立人が供託命令に従わない場合には、共有持分取得の裁判は却下されます。但し、即時抗告をすることはできます。
 
この、供託をしなければならないこととされているのは、所在等が不明な共有者の利益を保護するためです。したがって供託金の額は、所在等が不明な共有者の保護するのに十分であるかという観点から決定されるものと考えられます。
 
 
 
4.手続の流れ
 
(1)地方裁判所への申立
 
不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てることができます。なお、申立の際に必要な費用は概ね以下のとおりです。
① 申立手数料  印紙1000円×申立ての対象となる持分の数×申立人の数
② 予納金(官報公告費用) 7134円~(ただし、共有物の数等申立ての内容により変わります。
③ 郵便切手 6000円分(ただし、共有者等が1名増えるごとに2178円が追加されます。
 
 
(2)異議届出期間等の公告
 
所在不明等の共有者や他の共有者が異議の届出をできる期間等を公告します。この異議届出期間は3か月を下回ることはできないとされています。
 
 
(3)登記簿上の共有者への通知
 
上記(2)の公告をした後、裁判所は登記簿上判明している共有者に対して個別に通知を送ります。
 
 
(4)異議届出期間等の経過
 
裁判所は(2)の異議届出期間等が経過しなければ裁判をすることができません。なお、所在等が不明な共有者が自ら異議を出した場合、その共有者は特定され、その所在も明らかとなることから、裁判を起こすための要件を欠くことになり申立ては却下されます。所在等不明共有者からの異議については異議届出期間の満了後であっても取得の裁判が出る前であればよいとされています。
 
 
(5)時価相当額の決定と供託
 
裁判所は、所在等が不明な共有者の不動産の持分を取得するための裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないとされています。
 

(6)取得の裁判
 
裁判所は、公告を実施して所定の期間が経過した結果、所在等が不明な共有者であることを認定し、申立人が供託命令に従って供託をした場合には、所在等が不明な共有者の持分の取得の裁判をします。
 

(7)登記
 
裁判所が(6)の裁判をしてその決定が確定した場合、申立てを行った共有者はその取得した持分について登記手続を行うことになりますが、裁判所が職権で行ってくれるわけではありませんので、自身で手続をするか司法書士に依頼するなどして手続をすることになります。
 
原則として、登記手続は権利を取得した者と失う者が共同して行いますが、この裁判によって持分を取得した共有者は、所在等が不明の共有者の代理人となると解されるため、事実上は持分を取得した者が単独で申請できることになります。
 
 
 
5.おわりに
 
 
以上、所在等不明共有者の不動産の持分の取得についての解説でした。
なお、改正によって、裁判所の関与のもとで、所在等不明共有者の不動産の持分について、他の共有者が第三者に譲渡できる制度も創設されています。不動産を第三者へ譲渡することが具体的に予定されているにもかかわらず、一部の共有者が不明である場合などはこちらの制度も検討してみるのもよいでしょう。