2024/4/3

相続人申告登記制度とその注意点

令和6年4月1日から相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。しかし、相続登記を申請しようとする場合、基本的には被相続人の出生から死亡に至るまでの戸除籍謄本などの書類を収集して、法定相続人の範囲やその相続分などを確定する必要があります。
 
そこで、上記の期限内に相続登記の申請をすることが難しい場合に、比較的容易に相続登記の申請義務を果たすことができるようにする仕組みとして、「相続人申告登記」が新たに設けられ、令和6年4月1日から始まっています。
 
 
 
 
相続人申告登記制度とその注意点
 
 
 
目次
1.相続人申告登記制度の概要
2.相続人申告登記の特徴
3.相続人申告登記の注意点
4.おわりに
 
 
 
1.相続人申告登記制度の概要
 
 
令和6年4月1日に相続登記が義務化されましたが、相続によって不動産を取得したとしても相続人間のトラブル等何らかの事情によって相続登記が申請できないことがあります。相続人申告登記制度はそのような場合の一時的な取り扱いとして、相続(遺言を含む)によって被相続人の不動産を取得した相続人が、法務局に対して、自分が相続人であることを申し出る制度です。
 
相続によって不動産を取得した相続人が、その取得を知った日から3年以内に相続人申告登記の申出をすれば、相続登記の義務を果たしたものとみなされます。
 
 
 
2.相続人申告登記の特徴
 
 
相続人申告登記の特徴としては以下のようなものがあります。
 
① 特定の相続人が単独で申出をすることが可能
なお、他の相続人の分も含め、代理で申出をすることできます
 
② オンラインを利用した申出も可能

申出の手続は書面だけでなく、オンラインですることもできます(特に専用のソフトウェアを利用することなく、「かんたん登記申請」を利用したWebブラウザ上で手続をすることができます)。
 
③ 法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定する必要がないことから提出する書類も少ない

例えば、登記記録上の所有者が死亡し、その子が相続人申告登記の申出を行う場合、一般的に、「被相続人(死亡した方)の死亡した日が分かる戸籍の証明書(戸除籍謄本等)」「申出人が被相続人の子であることが分かる戸籍の証明書」「被相続人の死亡した日以後に発行された申出人についての戸籍の証明書」が必要になり、1通の証明書でこれらの内容が記載されていれば、その証明書の添付で足ります。
相続登記を申請する際には、原則として被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要となることに比べると、相続人申告登記の申出に添付する書類は簡略化されています。
 
④ 相続人申告登記の手数料は無料(非課税)

相続人申告登記やその変更、抹消は、申出を受けた登記官の職権でされるものであるため、相続登記とは異なり申出人に登録免許税の負担は生じません。ただし、申出に添付する書類を取得するための費用(戸籍取得のための手数料など)は必要です。
 
 
 
3.相続人申告登記の注意点
 
 
相続人申告登記は、簡易に義務を果たすことができる一方で、次のような点に留意しなければなりません。
 
① 相続登記の申請ではないため、申出をしても登記記録上の所有者は被相続人のまま

相続人申告登記は不動産についての権利関係を公示するものではないため、持分などの表示はなされず、また、登記識別情報(いわゆる権利証)は通知されません。もし相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要があります。
 
② 遺産分割に基づく相続登記の申請義務を履行することはできない

相続人申告登記では、遺産分割による相続登記の申請義務を果たすことはできません。したがって、相続人申告登記の後に、遺産分割協議が成立した場合には、その時点から3年以内の登記が義務付けられることになります。
 
③ 一度登記された相続人申告登記について、その抹消登記を申請できる場面が限定的

実務上、相続人申告登記の抹消の申出は、相続人申告登記で記録された相続人が相続放棄するか、相続人の欠格事由(民法891条)に該当するか、廃除よっての相続権を失った場合に限られます。
 
 
 
4.おわりに
 
 
相続人申告登記の制度は、相続登記の義務化に伴い、相続登記の申請をすることが難しい場合に簡易に相続登記の申請義務を果たすことができるようにする仕組みとして創設された制度です。しかし、その一方で、前述のような注意点もありますので、安易に相続人申告登記で相続登記の義務を果たすのではなく、例えば、法定の期間内に、遺産分割などで確定した権利に基づく相続登記を申請することができず、かつ、相続登記の義務化に違反した場合に処せられる過料を免れるための「正当な理由」が認められない場合などに活用するのがよいのではないかと思います。