2024/4/11

登記事項証明書等における代替措置について

 不動産の登記記録に記録されている者の住所が明らかにされることにより、人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがある場合など一定の要件に該当するときには、その者からの申出によって、登記事項証明書(登記簿謄本)等にその者の住所に代わる「公示用住所」を記載する措置が令和6年4月1日から講じられるようになりました。
 
登記事項証明書等における代替措置について(不動産登記関係)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00596.html
 
詳細は、上記リンク先に記載されていますが、以下では代替措置を受けるうえでのポイントを解説します。
 
 
 
 
登記事項証明書等における代替措置について
 
 
目次
1.申出をすることができる者
2.申出の方法
3.公示用住所
4.代替措置を受けるための要件
5.代替措置を受けるための要件に該当する事実を明らかにする書面
6.おわりに
 
 
 
1.申出をすることができる者
 
 
代替措置の申し出は、登記記録に記録されている個人に限ってすることができます。したがって、法人は代替措置の申し出をすることはできません。
 
 
 
2.申出の方法
 
 
代替措置の申出は、全国のどの法務局に対してもすることができ、申出書を法務局に提出する方法によって行います。法務局の窓口に持参するだけでなく、郵送することも可能です。郵送の場合は、書留郵便で行う必要があることと封筒の表面に「代替措置等申出書在中」と明記することに注意が必要です。
 
 
 
3.公示用住所
 
 
代替措置によって登記事項証明書等に記載することになる住所(公示用住所)は、申出人である登記記録に記録されている者と連絡をとることができる者の住所または営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在地である必要があり、代替措置の申出をする際には、その者から公示用住所を提供者することについての承諾書を添付することになります。この承諾書は、原則として提供者が作成して記名押印し、さらに印鑑証明書を添付する必要があります。
 
なお、法務局の住所を公示用住所とすることも可能であり、この場合には上記の承諾書の代わりに、公示用住所である法務局に送付された申出人宛ての文書その他の物の保管、廃棄その他の取扱いに関する一定の事項が記載された書面を添付しなければなりません。
 
 
 
4.代替措置を受けるための要件
 
 
代替措置の申出は、登記記録に記録されている者の住所が明らかにされることにより、次のようなことがある場合にすることができます。
 
①その生命又は身体に危害を及ぼすおそれがある。
 
②ストーカー行為等に係る被害を受けた者であって更に反復してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をされるおそれがある。
 
③児童虐待(暴行によるものを除く。)を受けた児童であって更なる児童虐待を受けるおそれがある。
 
④DVの被害者であって更なる暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものを除く。)を受けるおそれがある。
 
⑤上記に掲げるもののほか、心身に有害な影響を及ぼす言動(身体に対する暴力に準ずるものに限る。)を受けた者であって、更なる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがある。これは、例えば次のような場合が挙げられています。

・特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的以外の目的により前記②のストーカー行為等とどうようの態様による行為に係る被害を受けた者
 
・ 前記③の児童虐待と同様の態様による行為に係る被害を受けた満18歳以上の者(例えば、高齢者など)
 
・ 保護者でない者から前記③の児童虐待と同様の態様による行為に係る被害を受けた児童
 
・ 配偶者以外の者から前記④の暴力と同様の態様による行為に係る被害を受けた者
 
・ 名誉又は財産等に対する脅迫を受けた者
 
・ 正当な理由なくインターネット上で生活状況を含めたプライバシー情報がさらされている深刻な状況にある者
 
なお、これらに該当しなくても、前記②から④までに掲げる言動と同程度の心身に有害な影響を及ぼす言動を受け、更なる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがある場合には、前記⑤の事由があると認められることがあります。
 
 

5.代替措置を受けるための要件に該当する事実を明らかにする書面
 
 
代替措置の申出書には、申出人の印鑑証明書(申出人が運転免許証その他の本人確認書面を登記官に提示した場合は不要)など一定の書面を添付しなければならず、その中には、代替措置を受けるための要件に該当する事実を明らかにする書面というものがあります。この点、具体的には①加害者から受けた被害の日時、場所及び態様、登記記録に記録されている者の住所が公開されることにより更に被害を受けるおそれの内容及び当該おそれが生ずる理由の詳細等を記載し、作成者である申出人が記名押印または署名をした陳述書と、②過去の被害の事実を裏付ける公的書面又は客観的書面を添付する必要があります。
 
このうち、②の公的書面の例としては次の書面が挙げられています。
・市区町村によるDV等支援措置決定の通知書
・ストーカー行為等の規制等に関する法律に基づく警告等の実施書面
・配偶者暴力相談支援センター等のDV保護に関する相談証明書等
 
また、客観的書面の例としては、次の書面が挙げられています。
・医師の診断書
・怪我の写真(撮影時期が明らかなもの)
・申出人に対する脅迫等を内容とするSNSの画像(投稿時期が明らかなもの)等
 
これらの書面の添付がない場合など、書面上から代替措置を受けるための要件に該当する事実の有無が判断できない場合には、法務局において対面で調査することになります。
 
 
 
6.おわりに
 
 
不動産の登記事項証明書には、売買などの不動産取引の安全を図るために所有者の住所が記録され、誰でも手数料を払えば登記事項証明書を取得して確認することができるようになっています。しかし、登記されている名義人がDV被害者等の被支援措置者である場合などには、被支援措置者の保護の観点から現住所が記録された登記事項証明書の公開を制限することも必要です。従来の登記実務上においても、一定の場合には現住所への住所の変更の登記を不要とする取扱いや、前住所又は前々住所を所有者の住所として申請することを許容したり、登記申請書等に記載されている被支援措置者の住所の閲覧制限の取扱いを行っていたりしていましたが、今回の改正により法的な根拠が設けられたことで、措置が必要な場合には適切に利用されることが期待できます。