2024/4/23

相続放棄の熟慮期間の延長について

相続人が相続放棄や限定承認をする場合には、原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に家庭裁判所でその旨を申述しなければならないとされていますが、この期間内に相続放棄をすることができない場合には、家庭裁判所に対してこの期間を延長するための申立てをすることができます。
 
 
 
相続放棄の熟慮期間の延長について
 
 
 
目次
1.相続放棄とは
2.熟慮期間とは
3.熟慮期間を延長するには
4.申立てができる人
5.申立先
6.申立てに必要な費用
7.申立てに必要な書類
8.おわりに
 
 
 
1.相続放棄とは
 
 
被相続人が亡くなると、その相続人は、被相続人の財産や債務を全て相続することになりますので、被相続人が借金等の債務を負っていた場合には、相続人は、その債務も引き継ぐことになります。
相続人が被相続人の借金等の債務を引き継ぎたくないときは、相続放棄をすることにより、その債務を引き継がないことができます。ただし、相続放棄をすると、被相続人の債務だけでなく、被相続人が有していた財産(土地や預貯金等の権利)も引き継がないことになります。
 
限定承認
 被相続人の借金などがどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等には、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を引き継ぐことができ、これを「限定承認」といいます。
 
 
 
2.熟慮期間とは
 
 
民法第915条第1項では、相続人が相続放棄をする場合には、原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時」、言い換えると、被相続人が亡くなったことと、それにより自分が相続人となったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所でその旨を申述しなければならないとされています。この期間のことを熟慮期間といいます。
 
 
 
3.熟慮期間を延長するには
 
 
熟慮期間を延長するには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内、つまり、熟慮期間内に家庭裁判所に対して申立てをする必要があります。申立ては裁判所の窓口に持参するほか郵送でも可能です。ただし、郵送の場合には、熟慮期間内に家庭裁判所に届かなければならないことに注意が必要です。
 
 

4.申立てができる人
 
 
熟慮期間の延長の申立ては、相続人を含む利害関係人のほか、検察官もすることができます。
 
 
 
5.申立先
 
 
熟慮期間の延長の申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
 
 
 
6.申立てに必要な費用
 
 
申立てにかかる費用としては、まず次の2つがあります。
①相続人1人につき収入印紙800円分
②連絡用の郵便切手が
連絡用の郵便切手の内訳については、あらかじめ申立てをする家庭裁判所に確認するようにしましょう。
 
このほか、弁護士や司法書士に手続を依頼した場合には、その報酬等が必要です
 
 
 
7.申立てに必要な書類
 
 
申立てをするには「申立書」及び「添付書類」が必要です。添付書類については申立をしようとする相続人の相続順位にかかわらず共通するものと相続人の相続順位によって異なるものがあります。
 
 
(1) 申立書
 
申立書の書式や記載例については裁判所のウェブサイトからダウンロードすることができます。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_52/index.html
 
 
(2) 添付書類
 
標準的な申立添付書類としては、申立てをする相続人によって次のようになります。
 
① 被相続人の配偶者に関する申立ての場合

・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・ 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)
・ 伸長を求める相続人の戸籍謄本
・ 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
② 被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)に関する申立ての場合

・ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・ 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)
・ 伸長を求める相続人の戸籍謄本
・ 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
③ 被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)に関する申立ての場合】

・ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・ 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)
・ 伸長を求める相続人の戸籍謄本
・ 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
④ 被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)に関する申立ての場合

・ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・ 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)
・ 伸長を求める相続人の戸籍謄本
・ 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
複数の申立を行う場合において共通する書類は1通あれば足ります。
 
もし、申立前に入手が不可能な戸籍等がある場合は、その戸籍等は、申立後に追加提出することでも差し支えありません。
 
また、審理のために必要な場合は、追加書類の提出を求められる場合があります。
 
 
 
8.おわりに
 
 
以上、相続放棄の熟慮期間の延長について解説しました。
 
熟慮期間の延長の申立てをせず、この期間内に相続放棄又は限定承認をしなかったときは、単純承認をしたものとみなされ、被相続人の財産と借金等の債務を全て引き継ぐことになります。
 
家庭裁判所が熟慮期間の延長を認めるかどうかを判断するのに1~2週間程度の期間がかかるため、熟慮期間の終了直前に申立てを行って、もし熟慮期間の伸長が認められなかった場合、それから相続放棄をしようとしても、その時点で既に熟慮期間が経過したことにより相続放棄が認められず、単純承認となってしまうことも考えられます。
 
熟慮期間の延長の申立てをするのであれば、スケジュールに余裕をもって行うようにしましょう。