2024/6/19

遺言書を保管していることを教えてくれる!自筆証書遺言書保管制度のメリット

自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、法務局で遺言書を長期間適正に管理・保管しますが、この制度の最終的な目的は、遺言者の死亡後、その相続人だけでなく、遺言書に記載された受遺者や遺言執行者等(以下、「関係相続人等」といいます。)において、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の取得(以下、「閲覧等」といいます。)によって、遺言書の内容を知ってもらうことです。
 
しかし、遺言者が生前、遺言書を法務局に預けていることを一部の相続人だけにしか伝えていない場合や誰にも伝えていない場合、遺言者の死亡後、すべての関係相続人等がその事実に気付くことは困難です。
そこで、一定の条件の下、法務局から、遺言書を保管していることをお知らせすることで、関係相続人等に手続を促すこととしています。
 
通知には、「関係遺言書保管通知」と「遺言者が指定した方への通知(指定車通知)」の2種類があります。
 
 
 
 
 
遺言書を保管していることを教えてくれる!自筆証書遺言書保管制度のメリット
 
 
 
目次
1.関係遺言書保管通知
2.遺言者が指定した方への通知(指定者通知)
3.通知の内容
4.通知に関する注意点
5.おわりに
 
 
 
1.関係遺言書保管通知
 
 
関係遺言書保管通知は、法務局に保管されている遺言書について、遺言者の死亡後に関係相続人等が遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受けたときに、法務局からその他のすべての関係相続人等に対して、遺言書が法務局に保管されていることをお知らせするものです。
 
(1)通知の効果
 
この通知により、すべての関係相続人等に遺言書が保管されていることが伝わることとなります。
 
 
(2)通知をしてもらうために特段の手続は不要
 
関係遺言書保管通知は、関係相続人等のうちの誰かが、特定の遺言者の遺言書の閲覧等をしたことにより、その添付書類から遺言者が死亡したことを確認できるため、その他の関係相続人等にお知らせすることが可能となるため実施するものであり、この通知をしてもらうために遺言者・関係相続人等が特別な手続をする必要はありません。
 
ただし、遺言者死亡後であっても、関係相続人等のうちの誰かが、遺言書の閲覧等をしなければ、この通知はされません。
 
 

2.遺言者が指定した方への通知(指定者通知)
 

遺言者が指定した方への通知(以下「指定者通知」といいます。)は、戸籍事務を担当する部署と連携して、遺言者の死亡の事実を確認した場合に、あらかじめ遺言者が指定した人に対して、遺言書が保管されていることをお知らせするものです。この通知は、遺言者が希望する場合に限り実施します。
 
このほか、遺言書保管事実証明書又は遺言書情報証明書を交付した場合にも、遺言者の死亡の事実を把握することができるため、この際にも指定者通知が実施されます。
 
従来、指定者通知の対象者として指定できるのは、遺言者の推定相続人、受遺者等、遺言執行者等のうち1人に限定されていましたが、令和5年10月2日から指定者通知の運用が変更され、通知の対象者を「遺言者の推定相続人、受遺者等、遺言執行者等」に限定せず、人数も3人まで指定することが可能となりました。
 
したがって、上記の人以外でも、遺言書が保管されている事実を確実に伝えたいと考える人がいればその人を指定することができるようになります。ただし、指定者通知を受け取った人であっても、関係相続人等でなければ遺言書の閲覧等を行うことができませんので、通知対象者を指定する際にはこの点に注意が必要です。
 
なお、外国籍の遺言者も通知対象者を指定することができますが、その場合は、遺言書保管事実証明書又は遺言書情報証明書を交付した場合にのみ指定者通知が実施されます。また、遺言者の戸籍が、コンピュータによる取扱いに適合しない戸籍である場合には、外国籍の遺言者の方と同様の取扱いとなります。
 
 
(1)通知の効果
 
遺言者が遺言書を法務局に保管していることを一切誰にも伝えないまま亡くなった場合でも、まず、この指定者通知を受け取った人にその事実が伝わり、その人が遺言書の閲覧等を行うことにより、関係遺言書保管通知によって、結果として、その他すべての関係相続人等にも、遺言書が保管されていることが通知されることになります。
 
ただし、上述したとおり、指定者通知を受け取った人が関係相続人等でない場合は、遺言書の閲覧等を行うことはできませんので、この場合は、指定者通知を受け取った人が、関係相続人等の誰かに知らせて遺言書の閲覧等を行ってもらうことで、関係遺言書保管通知によるその他すべての関係相続人等への通知が実施されることになります。
 
 
(2)指定者通知をしてもらうための手続
 
遺言者が遺言書の保管を申請する際に、所定の書式で指定者通知の対象者指定する必要があります。対象者は3名まで指定することができ、また、すでに指定者通知の対象者を1名指定しているような場合に、変更の届出により対象者を追加することもできます。
 
 
 
3.通知の内容
 
 
関係遺言書保管通知や指定者通知には①遺言者の氏名②遺言者の出生の年月日③遺言書が保管されている遺言書保管所の名称④保管番号等が記載されていますが、具体的な遺言の内容までは分かりません。
したがって、これらの通知を受領したら、遺言の内容を確認するために最寄りの法務局で閲覧や遺言書情報証明書の交付の請求を行う必要があります。
 
ただし、閲覧や遺言書情報証明書の交付の請求については、指定者通知を受領した方であっても関係相続人等以外の人が行うことはできないことは前述のとおりです。
 
 

4.通知に関する注意点
 
 
通知は、関係相続人等の元へ確実に届かなければ意味がありません。そのため、遺言書の保管の申請時において、遺言書に記載された受遺者等及び遺言執行者等の氏名又は名称及び住所は正確に記載するよう注意が必要です。
 
そのため、これらの事項を記載する際には、可能な限り住民票の写しなどで正確な記載を確認することが望ましいでしょう。
 
また、遺言書の保管の申請をした後に、受遺者等及び遺言執行者等として遺言書に記載した人が転居して住所を変更したり、指定者通知の対象者として指定した推定相続人との間での身分関係の変更等があったりした場合には、その変更の届出をするようにしましょう。この届出は、全国どこの法務局でも可能で、また、郵送によっても行うことができます。
 
 
 
5.おわりに
 
 
関係遺言書保管通知や指定者通知により、遺言書があることを関係者に知らせてくれることで、相続発生後の遺言執行が円滑に進むことが期待できます。
 
ただし、あくまでも自筆証書遺言保管制度では、遺言書の保管申請時に民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについての外形的なチェックしか受けられず、遺言書の内容についての質問や相談を受けることはできません。もし、遺言書の内容について不安や相談したいことがある場合は、専門家へご相談されることをお勧めします。