2024/7/6

遺産を現金化して分配する「清算型遺贈」について

遺言を残すことで、ご自身の死後、その遺産を、誰に、何を、どのくらい受け取ってもらうのかを決めることが可能となります。
 
遺言は、特定の財産(例えば、遺言者が有する不動産)を、特定の誰かに(例えば、遺言者の妻)に相続させる、という風に作成する場合が一般的かもしれませんが、例えば、不動産や有価証券などの遺産を売却し、現金化したうえで相続人や相続人以外の第三者に分配する、という風に作成することもでき、このような遺言のことを「清算型遺贈」などと呼ぶことがあります。
 
 
 
 
 
遺産を現金化して分配する「清算型遺贈」について
 
 
 
目次
1.清算型遺贈とは
2.清算型遺贈の遺言書の書き方
3.遺言執行者の指定をしておくのが望ましい
4.清算型遺贈を利用する場合の注意点
 
 
 
1.清算型遺贈とは
 
 
「清算型遺贈」とは、遺言によって、ご自身の死亡後に不動産などの遺産を売却し現金化したうえで、そのお金を然るべき人に対して一定の割合あるいは一定の金額で相続させたり、あるいは遺贈することです。
 
例えば、ご自身の財産の中に自宅不動産があるものの、相続人である子もそれぞれ自分の家を所有しているような場合、相続人にとっては不動産を相続しても、誰も住まずに空き家になってしまうだけでなく、不動産の管理や処分が負担となってしまうことから、相続しても困ってしまうということがあるかもしれません。
 
また、遺産の中に占める現金や預貯金の割合が少なく、ほかの財産を現金化しないと相続人間で平等に分配することが難しいというような場合もあるでしょう。
 
ほかにも、遺産を寄付したい団体があるものの、不動産そのものは受け取ってもらえないため、ご自身が亡くなった後に不動産は売却してその代金を寄付することにしたい場合や同居している相続人には障がいがあるため、ご自身の死亡後は自宅を売却し、その売却代金で施設に入居させたい場合など、遺産をそのままの形で受け取ってもらうよりも現金化したほうが、遺言者の希望を実現できることもあるかと思います。
 
そのような場合において、ご自身が亡くなった後は自宅不動産を売却してもよいという考えがあれば、不動産を現金化したうえで分配するという内容の遺言書を作成しておくことで、遺産の分配が容易になったり、また、受け取る側にとっても受け取りやすいなどのメリットがあります。
 
 
 
2.清算型遺贈の遺言書の書き方
 
 
清算型遺贈をする場合の遺言書の記載例は以下のようになります。
 
<全ての財産を換価してその代金を遺贈する場合>

第〇条 遺言者の有する財産の全部を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、かつ、相続財産に関する費用、遺言の執行に関する費用、遺言者の葬儀・埋葬費用を控除した残金を、A(住所・生年月日)に遺贈する。
 
 
<特定の財産を換価してその代金を相続させる場合>

第〇条 遺言者の有する下記不動産を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、かつ、遺言の執行に関する費用を控除した残金を、次のとおり相続させる。
 妻  A(生年月日) 8分の6
 長男 B(生年月日) 8分の1
 二男 C(生年月日) 8分の1

           記

 所  在   ○○○市○○町○丁目
 地  番   ○番○
 地  目   宅地
 地  積   ○○.○○㎡
 
 

3.遺言執行者の指定をしておくのが望ましい
 
 
遺言執行者とは、遺言の内容を実現させる人のことですが、この遺言執行者がいない場合、遺言の内容である財産の換価処分等は遺言者の相続人全員で行う必要があります。
 
しかし、遺言の内容に不満があるなどの理由で、手続に協力しない相続人が出てくる可能性もありますし、相続人同士が遠方にいるような場合、手続を進めるのに手間や時間がかかることもあります。
 
遺言執行者は、相続人の代理人として財産の換価処分を単独で行うことができるため、一部の相続人が協力しないことで手続が進められなくなることを心配する必要はなく、また、スムーズに手続を進めることができます。そのため、清算型遺贈を行う場合には、遺言執行者を指定しておくのが望ましいといえます。
 
<遺言執行者を指定する場合の遺言書の記載例>

第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、下記の者を指定する。
          
              記
 住  所  ○○県○○○市○○町○○番地○○
 職  業  ○○
 氏  名  ○○○○
 生年月日  昭和○年○月○日生
 
 
 
4.清算型遺贈を利用する場合の注意点
 
 
(1)登記手続が複雑
 
不動産について清算型遺贈を利用する場合、その所有者が変更する経緯を登記します。
 
不動産の所有権については、遺言者の相続が発生することによって、いったん相続人全員の所有となるという考え方になっているため、遺言者の名義から直接、買主の名義に変更することはできません。登記を申請する順番としては、まず➀相続を原因とする所有権移転登記を申請して相続人の名義に変更して、その後に②売買を原因とする所有権移転登記を申請して買主の名義に変更することになります。
 
なお、遺言執行者がいる場合、➀については遺言執行者が単独で申請ができますが、②は遺言執行者と買主との共同で申請することになります。
 
 
(2)相続人には譲渡所得税がかかることも
 
清算型遺贈によって不動産を売却する場合、不動産を取得するときにかかった費用と売却金額を比較して売却金額の方が高ければ、原則として、その差額分の利益に対して譲渡所得税が課税されることになります。
 
例えば、清算型遺贈によって相続人以外の人(受遺者)に不動産の売却代金を遺贈した結果、譲渡所得税が発生するような場合、不動産の売却代金を受け取る受遺者が譲渡所得税についても納めるのが一般的だと思われます。ところが、(1)で述べたとおり、登記手続上は、いったん相続人名義の登記を経由したうえで、買主名義に所有権移転登記を行うことになるため、受遺者の名前はどこにも出てくることはありません。
 
そこで、譲渡所得税を納付しないでいると、売却前に登記記録上の名義になっていた相続人に対して、納税の催促が来る場合があります。
 
譲渡所得税は、不動産を売却した翌年に確定申告を行い納税する必要があります。したがって、譲渡所得税の納税をする時期と受遺者に対して不動産の売却代金を交付する時期との間にタイムラグが発生することになるので、受遺者が納税するように遺言執行者がきちんと管理するか、事前に譲渡所得税額を計算しておき、売却代金から税額分を差し引いた金額を受遺者に渡したうえで、遺言執行者が譲渡所得税の納税手続をするなどの対策をしておく必要があります。