2024/7/9

不動産の共有者の一人が死亡して相続人がいないとき、その持分はどうなる?

Q.AとBの共有となっている土地があります。Aが亡くなりましたが、Aには相続人がいない場合、その共有持分はどうなるのでしょうか?民法には「共有者の一人が死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」(民法255条)とありますが、今回のケースでもAの持分はBのものになるのでしょうか。
 
A.Aについて「特別縁故者に対する財産分与」(民法958条の3)がなされないときに、Aの共有持分がBに帰属することになります。
 
 
 
 
不動産の共有者の一人が死亡して相続人がいないとき、その持分はどうなる?
 
 
 
目次
1.民法255条と民法958条の3第1項
2.最高裁の見解では民法958の3を優先
3.他の共有者に持分の移転登記(名義変更)をする手順
4.おわりに
 
 
 
 
1.民法255条と民法958条の3第1項
 
 
民法255条では、「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」と定められています。死亡した共有者に相続人がいないケースとしては、そもそも法定相続人がいない場合のほか、配偶者と第1順位から第3順位までの相続人全員の相続放棄、相続欠格・廃除により相続人がいない場合が含まれますが、この条文があることから、共有者の一人が死亡して相続人がいないときは、その共有持分は当然にほかの共有者に権利が移転するかのように考えられます。

その一方で、民法958条の3第1項では、相続人としての権利を主張する者がない場合において、「相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる」と定められており、被相続人と特別な関係にある者(特別縁故者)への財産分与を認めています。
 
そこで、共有者の一人が死亡し、相続人がいない場合において、その持分がただちに民法255条により他の共有者のものになるのか、それとも民法958条の3に基づく特別縁故者に対する財産分与がなされないときに、255条により他の共有者のものになるのかという問題が生じます。
 
 
 
2.最高裁の見解では民法958の3を優先
 
 
共有者が死亡し、相続人がいない場合の問題について、最高裁は「共有者の1人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、法958条の3の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、法255条により他の共有者に帰属することになると解すべきである。」と判断し、民法958条の3が優先されることを明らかにています(最高裁平成元年11月24日判決)。
 
なお、マンションの敷地利用権については、専有部分(個々の住居内部のことです)と敷地利用権の分離処分が禁止されている場合には民法255条の規定は適用されないとされています。したがって、専有部分の所有者である区分所有者が死亡して相続人がいない場合、土地の共有持分にあたる敷地利用権が、ほかの区分所有者に移転することはありません。
 
 
 
3.他の共有者に持分の移転登記(名義変更)をする手順
 
 
これまで見てきたように、特別縁故者が財産分与の申立てをしないか、申立てが認められないときに、他の共有者が死亡した共有者の持分を取得できることになりますが、その不動産の名義を変更する手続は一筋縄ではいきません。
 
 
(1)相続財産清算人の申立
 
相続人がいる場合であれば、相続が開始した後は相続人が相続財産の管理を行うことになりますが、相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をした場合には、相続財産の管理をする人が誰もいない状態になってしまいます。
 
そこで、相続財産を適切に管理し、清算するために必要となるのが「相続財産清算人」であり、まず、利害関係人から家庭裁判所に対して相続財産清算人を選任してもらうための申立てを行います。
 
利害関係人には、通常であれば被相続人の親族が該当しますが、共有者の相続人がいない場合は、共有者の持分を取得しようとする他の共有者が利害関係人として申立てることが考えられます。
 
相続財産清算人には、家庭裁判所に登録している司法書士または弁護士が選任されることが一般的です。
 
なお、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てると、裁判所から「予納金」を納めるように指示されます。予納金は相続財産清算人の手数料に充てられますが、その額はおおよそ最低でも50万円程度はかかると思われますが、個々の事案によっても異なります。
 
 
(2)相続財産法人への登記名義人の変更
 
民法951条には、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」と定められています。そこで、死亡した共有者の名義を相続財産法人の名義に変更するための登記をします。
 
この登記は、相続財産清算人が申請し、死亡した共有者の名義を「亡○○相続財産」に変更します。
 
 
(3)相続財産清算人選任と相続人捜索の公告 
 
家庭裁判所は,相続財産清算人選任の審判をしたときは,相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告と相続人を捜すための公告を6か月以上の期間を定めて行います。この公告の期間が満了するまでに相続人が現れなかった場合,相続人がいないことが確定します。
 
 
(4)相続財産の清算の公告
 
(3)の公告があったときは,相続財産清算人は,2か月以上の期間を定めて,相続財産の債権者や受遺者(遺言により相続財産を譲り受けた人)を確認するための公告をします。なお、(3)の公告の期間が満了するまでに、この公告の期間が満了するように公告します。
 
 
(5)特別縁故者に対する財産分与の申立期間の経過
 
特別縁故者に対する財産分与とは、相続人がいない場合に、被相続人の生前に特別の縁故があった人が、相続財産の全部または一部を受け取ることができるという制度です。(3)の公告期間の満了後、3か月以内に行わなければなりませんが、家庭裁判所に認められると相続財産の分与が行われます。これによって共有となっている不動産の持分が特別縁故者に分与されてしまうと、当然、他の共有者が持分を取得することはできません。
 
 
(6)他の共有者への持分移転登記
 
(5)の特別縁故者に対する財産分与の申立期間が経過するか、または特別縁故者に対する財産分与の申立てを却下する審判が確定すれば、他の共有者が持分を取得することになりますので、他の共有者への持分移転の登記を申請します。
 
 
 
4.おわりに
 
 
共有者の一人が相続人なくして死亡した場合、その共有持分が、民法255条の規定により当然には他の共有者のものになるわけではなく、一定の手続を経なければなりません。
 
裁判所や法務局などに対する手続は複雑であり手間と時間がかかりますので、不慣れな場合や不安がある場合には、弁護士や司法書士などの専門家への依頼を検討してみるのもよいでしょう。