2024/10/30

代表取締役等住所非表示措置についての注意点

代表取締役等住所非表示措置は、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって創設された制度で、令和6年10月1日から施行されています。
 
これによって、個人のプライバシー保護を図り、誰もが安心して起業することができることが期待されていますが、その一方でこの制度を利用するに当たって、法務省のホームページでは以下の点について注意喚起がなされています。
 
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。
そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な御検討をお願いいたします。
 
また、これ以外においても代表取締役等の住所非表示措置については留意しなければならない点もあります。
 
今回は、代表取締役等住所非表示措置についての注意点を解説したいと思います。
 
 
 
 
代表取締役等住所非表示措置についての注意点
 
 
 
目次
1.1.対象となる会社は株式会社のみ
2.2.非表示となる住所は一部のみ
3.3.既に登記されている住所について非表示とすることはできない
4.4.単独での申出はできない
5.代表取締役等住所非表示措置の継続
6.代表取締役等住所非表示措置の終了
7.利害関係者の添付書類等の閲覧請求によって住所を知られる場合がある
 
 
 
 
1.対象となる会社は株式会社のみ
 
 
代表取締役等住所非表示措置の対象となる会社は、株式会社のみであり、合同会社、合名会社、合資会社、特例有限会社のほか、各種の法人、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合及び限定責任信託については対象外とされています。
 
 
 
2.非表示となる住所は一部のみ
 
 
代表取締役等住所非表示措置の申出によって、代表取締役、代表執行役又は代表清算人の住所が登記事項証明書等に表示されなくなりますが、一切の住所が非表示となるわけではなく、最小行政区画までは表示されることになります。
 
簡単に言うと、市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)は記載されるということです。
 
 
 
3.既に登記されている住所について非表示とすることはできない
 
 
代表取締役等の住所非表示措置が施行されたとはいえ、すでに記録された代表取締役等の住所を非表示とすることができるわけではありません。既に住所Aが登記されている代表取締役について、住所Bへの住所変更登記と併せて非表示措置の申出をした場合、非表示とできるのは住所Bであって、住所Aについては下線抹消されるものの表示そのものは残ることになります。
 
ただ、例えば「福岡県久留米市〇〇番地〇〇 代表取締役 法務太郎」が同じ住所のまま、重任登記と同時に住所非表示措置の申出を行ったときは、新たに「福岡県久留米市 代表取締役 法務太郎」という登記がなされることになりますので、代表取締役の住所が重任前と同じかどうか登記記録上は判断できなくなるという点で一定の効果は期待できるでしょう。
 
 
 
4.単独での申出はできない
 
 
代表取締役等住所非表示措置は、「登記の申請と併せて」申し出るものとされており、この対象となる株式会社の登記は、設立の登記、本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記、代表取締役若しくは代表執行役の就任(重任を含む)若しくは住所変更による変更の登記、清算人の登記又は代表清算人の就任若しくは住所変更による変更の登記とされています。
 
なお、代表取締役又は代表執行役の重任の登記や本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記であって、既に登記されている代表取締役又は代表執行役の住所から変更がない場合であっても、代表取締役等住所非表示措置の申出をすることができることとされています。
 
 
 
5.代表取締役等住所非表示措置の継続
 
 
既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等について、住所を変更したことによる登記の申請をする場合には、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出が必要です。
 
他方で、既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている株式会社の登記の申請があった場合において、その対象となっている代表取締役等の住所と同一のものを登記するときは、引き続き代表取締役等住所非表示措置を講ずるものとされています。
 
ここでいう「同一のものを登記するとき」とは、本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記、重任又は再任の登記(いずれも当該代表取締役等の住所に変更がない場合に限ります。)が該当し、この場合には、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出をすることを要しないとされています。
 
 

6.代表取締役等住所非表示措置の終了
 
 
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社は、いつでも、単独でこの措置を希望しない旨の申出をすることができ、その場合には現に効力を有する登記事項について、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています。しかし、それ以外の場合でも、下記の事由に該当する場合には代表取締役等住所非表示措置を終了させることとされています。
 
(1) 株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合
 
 
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社について、その本店が登記上の所在場所において実在すると認められないときは、当該株式会社の登記記録が清算結了等により閉鎖されている場合を除き、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています。
 
「実在性が認められない」と判断するきっかけとなるのは次のような場合です。
 
① 第三者から当該株式会社を受取人とした郵便物が宛所不明により不達となったことを明らかにする書面(以下「不達となったことを明らかにする書面」という。)を添付した上で当該株式会社がその本店所在場所において実在しない旨の情報提供があったこと
なお、この場合において、その情報提供につき事実であることの蓋然性が高いものと判断したときには、当該株式会社に対して、法定の通知を転送不要郵便で送付するものとし、一定の期間内に返送等がないことをもって、当該株式会社の本店が登記上の所在場所において実在しないことを確認することになります。
 
② 弁護士又は認定司法書士から、その資格を証する書面の提示又は当該弁護士の職印につき当該弁護士が所属する弁護士会が作成した証明書の提出と併せて、当該株式会社がその本店所在場所において実在しないため代表取締役等住所非表示措置を終了すべき旨を記載した当該弁護士等の職印が押印された上申書及び不達となったことを明らかにする書面が提出されたこと

この場合には、上記の通知をすることなく、代表取締役等住所非表示措置を終了して差し支えないこととされているため、もしかすると会社が知らないうちに非表示措置が終了させられていた、ということが起こり得るかもしれません。
 
 
③ 法務局から株式会社に対して発送された通知等が宛所不明により不達となった場合

この場合においても、代表取締役等住所非表示措置を終了して差し支えないこととされています。
 
 
(2)上場会社でなくなったと認められる場合
 
 
上場会社として代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社が上場会社でなくなったと認められるときは、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています。
 
ここでいう「上場会社でなくなったと認められるとき」とは、株式譲渡制限の定款の定めの設定による変更の登記が申請されたとき等が該当します。
ただし、この場合でも、同時に法定の要件を満たした上で代表取締役等住所非表示措置の申出があったときは、代表取締役等住所非表示措置を終了させることなく、引き続き代表取締役等住所非表示措置を講じるものとされています。
 
 
(3) 閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められる場合
 
 
登記官は、代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社の閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるときは、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています。
 
ここでいう「閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるとき」とは、第三者から当該株式会社を所有権の登記名義人とする不動産の登記事項証明書等を添付した上で当該株式会社の清算が未了である旨の情報提供が登記官に対してあった場合などが該当します。
 
 
 
7.利害関係者の添付書類等の閲覧請求によって住所を知られる場合がある
 
 
代表取締役等住所非表示措置の申出の旨が記載された登記の申請書及びその添付書面等の代表取締役等住所非表示措置の対象となる代表取締役等の住所が記載されている登記簿の附属書類について、法務局側の取扱いとしては、当該住所が記載されている部分を塗抹するなどの特段の対応は要しないとされているため、利害関係を有する者から登記申請時の添付書類等について閲覧請求があった場合には、代表取締役等の住所が記載された書面も見られてしまうことになります。
 
 
 
8.その他の留意事項
 
 
(1) 住所変更等の登記義務は免除されない
 
代表取締役等住所非表示措置は登記事項証明書の記載事項に関する特例であるため、代表取締役等住所非表示措置が講じられたことをもって、会社法第915条第1項に規定する登記の義務を免れるものではありません。
 
既に代表取締役等の住所非表示措置がされている場合、登記事項証明書等では行政区画までしかその住所が確認できないため、例えば、同一の行政区画内で住所を移転していたとしても、住所変更登記が必要なのかどうかを判断することができません。
 
そのため、代表取締役等の住所非表示措置の申出をした際の代表取締役等の住所については、会社において記録しておくなどの対策を講じておくが大切です。
 
 
(2)官公署等の要請があった場合の法務局の対応
 
代表取締役等住所非表示措置の対象である代表取締役等の住所の情報に対して、官公署(官公署から嘱託を受けた者を含む。)から請求等があった場合には、その情報を提供して差し支えないとされています。
 
(3)自ら登記事項証明書を取得する場合でも住所非表示のものしか取得できない
 
住所非表示措置が講じられた会社が自らの登記事項証明書等の交付請求をする場合であっても、住所非表示措置が講じられた代表取締役等の住所の全部を登記事項証明書等に表示することはできません。また、当該交付請求をするときに限り当該措置を解除することもできません。
 
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